日本語ネタ。
時々、個人的なボランティアで日本語を勉強している中国人の文章校正をするのだが、その中で「濃い味目の料理」という表現が目についた。
あじめ?あじもく??初見では全く理解できなかった。
~目、という表現
~め、という表現は確かによくする。辛めの料理、甘めのお菓子。
辞書にもこうある。
め【目/▽眼】の意味
[接尾]
3 形容詞の語幹に付いて、そのような性質や傾向をもっている意を表す。「長―」「細―」
形容詞の接尾語として「め」を付けることで、やや柔らかい表現になる。ここまでは理解できる。
じゃあ、味+目 は?
しかしながら「濃い味目」という場合、(濃い味+目)なので目は味の接尾語ということになる。
だが「味」は言うまでもなく名詞だ。一応辞書を参照してみる。
あじ〔あぢ〕【味】の意味
[名]
1 舌の味覚神経が飲食物に触れたときの感じ。甘味・酸味などや温度の総合した感じ。
「味をつける」「スープの味が濃い」「あっさりした味」「他店より味が落ちる」
味(あじ)の意味 - goo国語辞書
「目」が形容詞にしか付かない以上、この(名詞+目)の表現は誤用ということになる。
思わぬ反論
以上の内容を伝えたところ、「上司には濃い味目でも問題ないと言われた」との返事が。(どうやら翻訳のバイトでの話だったそうで)
その根拠として送られてきた画像がこれだ。
うんうん、確かに実例を検索するのは賢い方法だ。
実際に日本人が使っている以上、その日本語が誤りと言い切るのは難しいだろう。
だが、実際に「濃い味目」でGoogle検索してみると結果はこうだ。
「濃い味目」の用法は、24,500,000件のうちたった3件のみ。
残りは「濃い味」という用法ばかりなので、この3件は誤用がたまたまヒットしただけ、という可能性が高い。
こういう使い方をする日本人が存在することは確かだが、たった3件では「皆が理解できる/違和感なく受け入れられる」用法とは言えないだろう。
ちなみに、「形容詞+味+目」の他の用例として「甘い味目」「辛い味目」も検索してみたが、当然ながらどちらも1件もヒットしなかった。
日本人なら誰もが違和感を覚える表現だと思うのだが、どうして説明したらいいものか・・・と少し頭を悩ませた。
濃い目の味、だよね
慣れないなりに色々と考察した結果としては「濃い目の味」が正しい用法だ、という結論に。
これなら文句なかろう!ということで伝えてみたところ、
- 日本人の口語の中にも混用はよくあること
- 日本に20年住んでいても日本語が下手な中国人もいる
- 言葉とは人それぞれで、人によって表現方法も受け取り方も異なる
- 4人の日本人に確認してもらったがこれで問題ないと言われた
- それに「目」は語幹に付くのだから(例:多目、少な目)、「濃い目ではなく濃目」になるはずだ
と返ってきて言われてなしのつぶてだったようで・・・。いやいや私日本人ですけど!!?
あとその日本人とやらは解雇した方がいいぞ。まともな仕事をしていない。
結局「上司が聞く耳を持たないスタンスなら渋々従うしかないね。渋々。」ということでスルーしたんだが、何とも釈然としない気持ちに・・・。
「濃い味風の」「ちょっと濃い味に」みたいなニュアンスで確かに伝わらないこともないけど、違和感ある変な日本語だよね?
ちなみに、最後の指摘「濃い目ではなく濃目」についてはNHKが解説しているが、「濃め」を使う人が非常に少なく「濃いめ」が一般的になっているよう。
こちらのブログでは辞書の見出しを参考にしており、「濃いめ」が見出し語になっている一方「濃め」という見出し語はないと紹介している。
流石中国人のスピーディーさ
この話の面白いポイントはここからなのだが、その上司、これだけ散々やりあった後にしれっと「その人は日本人なんだよね。今仕事が回らないぐらい忙しいから、もしよかったら仕事を頼めないか」と打診してきたそうだ。
おそらくこちらが文法的切り口から論理的に反論したことから、ある程度翻訳の真似事ができると踏んだのだろう。
自分の意見を頑なに変えようとしない偏屈な人だと思っていたが、利害が一致しそうだと分かるや否や舌の根の乾かぬ内に前向きな提案を持ち出すスタンスにはさすがに笑ってしまったが、嫌いじゃない。(良くも悪くも)中国人らしくて個人的にはポジティブにとらえている。
あいにく文章校正は趣味の範囲内で片手間ボランティアとして行っていることで、お金を貰えるクオリティではないから断りを入れたが、変なプライドに囚われずその前向きでビジネスライクな姿勢は見習うべきものがあると感じた瞬間だった。
でもやっぱり濃い味目は間違ってるけどな。
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